
セルビアの暮らしと文化を知る
セルビアを旅行すると、ベオグラードのような都市の活気だけでなく、カフェや市場、レストラン、家庭での食事など、日々の暮らしに触れる機会があります。
セルビアは、旧ユーゴスラビアを構成した国の一つであり、周辺のバルカン諸国とも共通する文化を持っています。一方で、セルビア正教会を中心とする宗教文化や、家族単位で受け継がれてきた習慣、肉料理を中心とした食文化など、セルビアならではの生活文化も見られます。
もちろん、都市と地方、世代、家庭によって暮らし方は異なります。「セルビア人はこういう人たち」と一括りにするのではなく、旅行中に出会う人々の背景を理解するための手がかりとして、セルビアの暮らしを見ていきましょう。
国民性
セルビア人の国民性を一言で表すことはできません。セルビアには複数の民族や宗教が存在しており、2022年の国勢調査でも、セルビア人のほか、ハンガリー人、ボシュニャク人、ロマなどさまざまな民族集団が確認されています。母語についてもセルビア語だけではなく、ハンガリー語、ボスニア語、ロマ語、アルバニア語などが使われています。
そのため、セルビア人の特徴を固定的に捉えるよりも、地域や家庭による違いがあることを前提にするのが適切です。
旅行者にとって身近なのは、人と人との交流の場面でしょう。セルビアでは、家族や友人と食事をしたり、カフェで会話を楽しんだりする時間が生活の一部となっています。観光地を急いで巡るだけではなく、街のカフェや市場などで人々の普段の姿を見ると、セルビアの生活感を感じやすくなります。

家族との関わり
セルビアの文化を知るうえで、家族とのつながりは重要なテーマの一つです。
家族や親族との関係は、食事や祝い事など、日常のさまざまな場面にも表れます。世代の異なる家族が集まり、一緒に食事をしたり、会話を楽しんだりすることは、セルビアの暮らしを知るうえで身近な場面の一つです。
また、セルビアの家庭や地域では、世代を越えて受け継がれてきた習慣や文化があります。宗教や家庭によってその形は異なりますが、家族の中で文化や習慣が伝えられていくことは、セルビアの生活文化を考えるうえで重要な要素です。
こうした家族とのつながりは、食卓を囲む時間や、親族・友人が集まる行事などを通しても見ることができます。
おもてなし
セルビアでは、食事をともにすることが人付き合いの重要な場面になることがあります。家庭に招かれた場合などには、料理や飲み物をすすめられることもあり、食卓を囲みながら会話を楽しむという交流が見られます。
こうした文化は、スラヴァのような家庭行事にも表れています。UNESCOの資料では、スラヴァの食事には親族だけでなく、友人や近隣の人々も参加するとされています。家庭を訪ねること、食事をともにすることが、人間関係を維持する機会にもなっていることが分かります。
旅行者としては、「観光客だから特別にもてなされる」と考えるより、現地の人との会話や食事を一つの交流として楽しむくらいが自然でしょう。相手の生活習慣や宗教的な背景を尊重しながら接することが大切です。
食卓・食文化
セルビア料理には、肉料理、パン、乳製品、野菜などを使った料理が多く、バルカン地域の食文化と共通する料理も少なくありません。
代表的な料理の一つが、ひき肉を細長く成形して焼く「チェヴァピ(Ćevapi)」です。また、セルビア風のハンバーグとも説明される「プリェスカヴィツァ(Pljeskavica)」、キャベツなどで肉と米を包んで煮込む「サルマ(Sarma)」なども知られています。セルビア料理は、オスマン帝国や中欧など、長い歴史の中で周辺地域から受けた影響が重なって形成されてきました。
食事では肉料理だけでなく、アイヴァル(Ajvar)のような野菜を使ったペーストや、パン、乳製品なども登場します。家庭料理では、同じ料理でも家庭や地域によって材料や味付けが異なる場合があります。
また、正教会の宗教文化と食生活の関係もあります。セルビア正教会の伝統では、一定の期間に肉や乳製品など動物性食品を控える断食の習慣があります。実際の旅行では、レストランのメニューや家庭の食事を通じて、宗教が食文化にも関係していることを感じる場面があります。
料理を単に「セルビア名物」として味わうだけでなく、誰と、どのような場面で食べられているのかを見ると、食文化の背景も少しずつ見えてきます。
宗教・伝統行事
セルビアでは、正教会の伝統が文化の重要な要素となっています。
2022年国勢調査では、セルビアの人口のうち正教徒が538万7,426人とされ、宗教を回答した人々の中では正教が大きな割合を占めています。一方で、カトリック、プロテスタント、イスラム教などを信仰する人々も暮らしており、地域によって宗教的な背景には違いがあります。
家族で受け継ぐ「スラヴァ」
セルビアの宗教文化を知るうえで、特に興味深いのが「スラヴァ(Slava)」と呼ばれる習慣です。
スラヴァは、セルビアの正教徒の家庭などで行われてきた、家族の守護聖人を祝う行事です。家の中でろうそくを灯し、スラヴァ用のパンやワインなどを用いた儀礼を行った後、親族や友人、近隣の人々を迎えて食事をともにします。
この習慣は2014年にUNESCO無形文化遺産の代表一覧表に登録されています。スラヴァは家庭内で世代を越えて受け継がれ、家族だけでなく親族や近隣住民、友人との社会的なつながりを強める役割も持っています。

スラヴァは、単なる宗教行事というより、家庭の歴史や人とのつながりが重なる文化として見ることができます。ただし、すべてのセルビア人家庭が同じ形で行っているわけではなく、宗教や家庭によって違いがあります。
セルビアの文化を理解するうえでは、教会や修道院だけでなく、家庭の中に残る宗教的な習慣にも目を向けるとよいでしょう。
スラヴァのほかにも、セルビアには伝統的な民族舞踊「コロ(Kolo)」や、グスレという弦楽器の伴奏による歌唱など、世代を越えて受け継がれてきた文化があります。UNESCOの無形文化遺産には、スラヴァ、コロ、グスレの伴奏による歌唱、ズラカサの陶器づくり、シュリヴォヴィツァ(プラム・ブランデー)に関する知識と習慣など、セルビアのさまざまな文化が登録されています。
こうした文化は、博物館の中だけに存在するものではありません。地域の行事や家庭、職人の仕事などを通して、現在の生活にもつながっています。
暮らしから見える旅行の魅力
セルビアを旅行するときは、ベオグラードの観光名所や歴史的建築を見るだけでなく、市場やパン店、カフェ、レストランなどにも目を向けてみるとよいでしょう。
例えば市場では、地元の人が食材を選ぶ様子を見ることができます。ベーカリーでは、パンや焼き菓子などを日常的に購入する人の姿に出会えます。カフェでは、観光のためではなく、友人や家族と時間を過ごす人々を見ることもあります。
また、食事の場面では、セルビア料理そのものだけでなく、誰と食卓を囲んでいるのかにも注目してみてください。家族や友人と食事をする時間、地域の行事、宗教的な習慣などを知ることで、旅行先の街が単なる「観光地」ではなく、そこで生活する人々の場所として見えてくることがあります。
セルビアは、旧ユーゴスラビアを構成した国々との文化的な共通点を持ちながら、宗教、歴史、地域ごとの背景によって独自の生活文化も育まれてきました。ベオグラードの都市文化から地方の市場や家庭料理、伝統行事まで、旅の中でさまざまな場面に出会えることがセルビアを知る面白さの一つです。
観光名所を巡るだけではなく、現地の人々が普段どのように食べ、話し、集まり、文化を受け継いでいるのかにも目を向けると、セルビア旅行はより立体的なものになるでしょう。
セルビアのツアーを見る
ツアー一覧はこちら